窓際やベランダなど土のないちょっとした場所でも簡単に始められる水耕栽培。アクアポニックスも水耕栽培の一つです。水耕栽培と共通部分もありますが、考え方が大きく違うところがあります。今回はアクアポニックスと水耕栽培の違いについて解説します。
水耕栽培とは
水耕栽培は土を使わず、野菜に必要な栄養が含まれる肥料を水に溶かしてできた養液を利用して野菜を育てます。土でのに比べ野菜の成長が早く、連作障害がないことや、省スペースで効率的に野菜を育てられます。そのためLEDなど人工光を利用した閉鎖環境型の植物工場では、水耕栽培が多く利用されています。
水耕栽培の利点
- 土が必要ない
- 土に比べ野菜の成長が早い
- 水の使用量が少ない
- 連作障害が発生しない
- 安定的に高収量を生み出すことができる
- 設備が完成するとすぐに栽培を開始できる
水耕栽培の不利な点
- 化学肥料の不均衡が生じた場合、水の入れ替えが必要
- 廃棄する養液には肥料成分が残っており正しく処理する必要がある
- 養液を介した病気の発生リスク
アクアポニックスとは
アクアポニックスも水耕栽培と同様に土を利用せずに野菜を栽培できます。水耕栽培の場合はバランスの取れた化学肥料を投入して養液を作りますが、アクアポニックスの場合、魚の排泄物を微生物によって分解し、野菜の栄養へと変換します。また、野菜が栄養を吸収すると水が浄化されるため、アクアポニックスでは水をリサイクルし続けることができます。
アクアポニックスの利点
- 土は必要ない
- 水の使用量が少ない
- 連作障害が発生しない
- 化学肥料に頼らず野菜を育てることができる(有機的)
- 水をリサイクルし続けるため水の入れ替えは必要ない
- 野菜に必要な肥料成分だけでなく有機物からほかの栄養も利用できる
- 魚も収穫できる
- 魚がいることでアニマルセラピーの効果が期待できる
アクアポニックスの不利な点
- 野菜の栽培に魚の飼育知識が必要
- 魚を飼育していることからPHを野菜に合わせることができない
- 魚が成長するまで育てられる野菜の量が少ない
- 設備の故障によって魚が死んでしまうリスクがある
- 魚に有毒な農薬を利用できない
- 野菜を育てる設備だけでなく養殖設備も必要となり初期コストが大きい
アクアポニックスと水耕栽培の比較
ではここからはアクアポニックスと水耕栽培を比較していきます。類似点もありますが、多くの違いがあります。
開始までの時間
これは水耕栽培と比較した際のアクアポニックスの大きな欠点の一つです。水耕栽培は設備の設置以降、養液に肥料を投入すればすぐに野菜の栽培が可能となります。一方、アクアポニックスは魚の排泄物を分解する微生物を増やす期間として3~5週間ほど時間を要します。また開始時点で魚は小さく餌を食べる量が少ないため、野菜の肥料も少なくなり、育てられる野菜の量が制限されます。そのため、アクアポニックスのフル稼働までには数ヵ月必要となります。
初期コスト
水耕栽培の場合には野菜を植えるための栽培槽と養液循環設備、養液タンクがあれば栽培を開始できます。アクアポニックスの場合、水耕栽培の設備に加えて養殖のための設備が追加で必要です。そのため初期コストは水耕栽培に比べて高くなる傾向があります。
養液管理の方法
水耕栽培では野菜の成長に必要な成分が含まれた肥料を養液に溶かし野菜を育てます。養液の肥料濃度は電気伝導率(EC)で測定し、野菜によって濃度を調整していきます。
アクアポニックスは、魚の排泄物を微生物により野菜の肥料に変換し野菜を育てます。養液の肥料濃度は硝酸塩(NO3)を試薬やイオンセンサーを用いて測定し、管理します。アクアポニックスでもECセンサーを取り付ける場合もありますが、魚の排泄物には野菜の必須栄養素以外の成分も含まれてしまうため、成分ごとに濃度を測定できない電気伝導率(EC)は有用な尺度ではなく、あくまでも目安として捉える必要があります。
PH
水耕栽培では野菜の成長に合わせてPHを5.5~6.0程度に調整します。一方、アクアポニックスは魚や微生物にも配慮する必要があり、6.5~7.0の範囲での管理が理想です。
害虫対策
水耕栽培の農場では慣行の農場のように農薬の利用も可能です。しかしアクアポニックスは、魚に有毒な農薬の使用ができないため注意が必要となります。
水温
水耕栽培は野菜の生育に適した20度前後の水温で管理されますが、アクアポニックスの場合にはPHと同様に魚と微生物への配慮が必要です。
似ているようで大きく違うアクアポニックスと水耕栽培
ここまでアクアポニックスと水耕栽培の違いを解説してきました。アクアポニックスは野菜を育てている部分に注目すると水耕栽培と同じですが、その仕組みや管理方法は異なります。Aquaponics Universityでは必ずしもアクアポニックスを推奨しているわけではありません。それぞれの特性をよく理解したうえで、あなたの目指すスタイルに合った栽培方法を選ぶことが重要だと考えています。アクアポニックスを始めようとしている方は今回の解説をヒントに、自分にはどちらがあっているか検討しみてはいかがでしょうか。
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